辻斬りのように男遊びがしたい。平穏に生きてきた女が、二十五歳になって突如と思いつき、次々と男を斬っていった。たった一ヶ月ほどの狂乱で、女は身ごもり、十月十日後に生まれたのが、川村七竈である。
わたし、川村七竈はたいへん遺憾ながら美しく生まれてしまった。いんらんな母のことで肩身が狭い上に、大人の男たちからじろじろ眺め回されることに怒りを覚えていた。男など滅びてしまえ……
いんらんな母から生まれた美しき少女、七竈の成長を描いた物語です。アンソロジー「Sweet Blue Age」に収録されていた「辻斬りのように」で、次々と男と寝た女性が、七竈の母親であり、その話が冒頭に置かれています。「辻斬りのように」を単独で読んだときは、それほど心を動かされなかったので、この「少女七竈」も敬遠していたんですが、読んで良かった。すばらしい作品でした。
なんと言っても、物語に漂う雰囲気が素敵です。どう表現すればいいのかわかりませんが、綺麗というか、高潔というか、透明というか。モノクロなのに、赤い色だけが浮かび上がるような美しさがありました。一章ごとに語り手が変わる展開なのに、この雰囲気が壊れないところがすばらしいですね。
個人的には、どこか温かさを感じる犬視点が好きでしたが、もっとも印象に残ったのは、七竈の母の過去の話でした。
出会いが早ければ、と思ったこともあるでしょうけれど、あの二人が先に出会ったからこそ、彼に出会えたということは、母からすれば、運命の皮肉としかいいようがないのかもしれません。気持ちのすべてが込められている涙が、切なかったです。
七竈と幼馴染の雪風の、淡々としながらも、体温を感じられるやり取りには、思わず口ずさみたくなるものがありましたが、自分たちのことに漠然とでも思い当たってしまったときには、もう別れは決まっていたんでしょうね。
七竈の気持ちは、恋とはちょっと異なる感情な気がしましたが、雪風の気持ちは恋だったんじゃないかなあ。披露宴のシーンで、すべてを撃ち払いたいと思った気持ちがわかるだけに、最後のセリフに込められた気持ちが心に突き刺さる思いです。
すがりつくには儚い、美しさを巡った話でもあったと思いますが、大きな隔たりがあった母と七竈が、語り合えたところはとてもよかったと思います。言葉とは裏腹にじょきんというハサミの音が温かく響いたような気がしたのは、七竈の成長を感じられたからでしょうか。
ラストの一文を読んだときの気持ちは、言葉で表すことができません。ただただため息。
ああ、何て素敵な物語なんだろう。間違いなく桜庭一樹の最高傑作だと思いました。大満足。ハードカバーだからと敬遠するのは、もったいないぐらいオススメです。
この作品を手に取るきっかけをくれた KeiKomori さんと INN さんのエントリーに感謝。
少女七竈と七人の可愛そうな大人
桜庭 一樹
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