「それって何だかさ……」
三日月を見上げる彼女は、優しい目をしていた。
「恋でもしているみたいだね」
美しく、独特の存在感と距離感を持つ舞原七虹の人生を、彼女に惹かれた人たちの視点から描く連作短編集。
恋って切ないなー。
仕事で一緒になった人、バンドを組んだ人、高校の部活の先輩など、各章ごとに七虹に惹かれた人たちの思いが描かれていく恋愛ものなんですが、彼女に惚れる男たちの恋は始まることがないので、彼らの思いを考えると、きゅっと切なくなるんです。またね、章が進むに連れて、時系列が逆に、つまり社会人、大学、高校、中学といった具合に、七虹の成長を遡っていく構成が憎いんだ。
七虹の心のうちはあまり見えないんですが、それは成長するに従っていろいろな、特にその美しさか嫉妬やらなにやらを受けたことが、独特の距離感を生み出していったんだということが、遡るにつれて見えたのは、僕だけじゃないよね。
個人的に好きなお話は、高校時代。卒業間近の天文部員が、机の落書きを通じた星座文通で彼女を知り、惹かれた上で、彼女の歌を聞いて心を奪われていく、その過程と、七虹もまた彼を思う気持ちがうっすら伝わってきて……もし、このときどちらかに勇気があれば、また違った未来があったんだろうなあと思うと切なくなる。
読み進めていくと、だんだんと見えてくる七虹の想い。そして、社会人の章で彼女が会議室で涙したこと、大学時代に突然バンドをやめたことに繋がっていく。ああ彼女はどれほどの想いを秘めていたんだろう。それは、他の人の恋を破るものであり、だからこそ想うだけだったんだろうに、でも、彼の「現在」を知ってしまったら……たどりつく結論はひとつだけでした。
きっかけは親友の言葉かもしれない。でも背中を押したのは、愛する人の言葉だった。抱きしめられた温かさは、きっと遠回りを補って余りあるものだと思います。まったく不器用なんだから。
ハッピーエンドなのに、切なさが漂うのは、そこに多くの実らぬ恋が描かれていたからだと思います。でも、その切なさが透き通って描かれていて、とても美しく思いました。
ちなみに、各章のタイトルは「朱夏」「橙心蜻蛉」「黄繭」「翠陰」「蒼葉闇」「藍の華」「紫陽花忌」となっているんです。これはもう……ね!
永遠虹路 (メディアワークス文庫)
綾崎 隼
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