「なんだっけ。この間読んだ本の、高校生を象徴する表現って」
数歩、前へ走る。足音はトラックを回っていた亀たちより、わずかに軽い。
「そして、呼吸をする度に恋をする、だったかな」
「カツ丼作れますか?」―閑散とした地域掲示板に立てられたトピックスをみた五人の老若男女、ギターを抱えて街中で歌う「ビートルズねーちゃん」、本屋の万引きが止められない少年、カツ丼が嫌になって家出する少女、愛とか祈りとかどうしようかなーと思ってるニート青年、妻をなくして心のよりどころを無くした老人が繰り広げる、他人からはどうでもよくて、だけど当人にはとても大切な事情を描く物語。ちなみに六百六十円は、この町の小さな食堂のカツ丼の値段です。
これはすっごい良かった。一章を読み始めたとき、これはいいと思ったけれど、二章が最高でした。この人の描く青春ものは、僕の好みドンピシャすぎる!
「生きてるだけで、恋」と題した二章は、退屈な毎日を送っていた万引少年・竹仲が、家の手伝いで働いてる同級生の少女・北本に恋をするお話。働いたことのない彼にとって、彼女の存在は眩しくて、また彼女がいい感じに格好いいんだなー。
学校内では目立たないけれど、仕事している少女の生き生きとした姿に惚れていく様がすっごい良いんだ。決して気になってるわけじゃないとスカしながら、ふと目が追ってしまう様子は、わかるわかると思ってしまう。読んでると彼女の笑顔が思い浮かぶぐらい、僕も北本に惚れてました。
彼女が竹仲をどう思っているかは、ね。「童貞」「処女」と悪態つきながら、バイクに乗ってる二人のじゃれあいっぷりを見てれば十分わかります。いいねー、青春だねー。
一章の「While my guitar gently weeps」は、自分は主役になると夢見て、ギター抱えて歌い続ける女の人のお話。決してギターがうまいわけでもなく、歌もそれなりぐらい。他に何が出来るわけでもない自分について、もやもやしたものを抱えながら、それでも歌い続ける彼女が、たった一言で、たった一回の出来事で、意識を変えて吹っ切っていく描写に、嬉しくなるものがあったなー。夢は捨てちゃいけないよね。
それぞれ独立したお話でありながら、さりげなく別の話にリンクしてたり、登場してきたりするのは、狭い町のお話だからですが、これが最終的に繋がってくると、また大きな感動を見せてくれるんです。「カツ丼」のトピックスをたてた老人のお話は、素敵なものがありました。こういう歳のとり方をしたいものだ。
全てが終り、いつもと変わらぬ日常に戻りながら、それまでとは違う感情をいだいていくエピローグはニヤニヤしっぱなしで、特に最後の一言はやられますよね。ほんと良かったです。オススメ!
六百六十円の事情 (メディアワークス文庫 い 1-3)
入間 人間
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