「しんどいですよ、絵を描くのは」
声は微笑している。しかし表情が見えない。
「絵を一枚仕上げるたびに、絵にサインを入れるたびに、もうやめよう、これで最後にしようって、考える」
「じゃあ、なんで、やめない?」
「描いてても辛いけど、描かないともっと辛いから」
腰を痛めた彫刻家の手伝いをと言われ、山奥へ向かった由良たちは、そこで腐乱死体を発見した。さらに、衝撃的なことに、自分たちが出会った彫刻家は、実は本ものではないことを知らされて……変人と言われる由良の、サスペンスと恋の物語の最終章です。
三部作を通して読むと、由良の心の移り変わりが見えてくるけれど、やっぱりどこか不器用な印象があるなあ。人の目を通すからなのかもしれないけれど、はぐらかすことがうまいけれど、嘘がつけないその心は、どれほどのものを抱えているのか。苦しくて苦しくて、でも絵を描かざるをえない思いは、正直僕にはわかりません。でも、何を犠牲にしてもという思いは伝わってきます。
彫刻家の手伝い先で発見した腐乱死体と、学内に伝わる噂が繋がっていく展開は、軽くミステリな感じがありましたが、この事件が起きた原因の一つが見えたとき、芸術家の考え方にゾクッとさせられました。いや、芸術に限らず、誰しもが持つものかもしれない思いだから、ゾッとしたのかも。
後半は、由良が教育実習生として高校へ出向くお話。顔がよく、絵もうまい彼に嫉妬する美術部の男子生徒から見た物語ですが、衝撃を受けつつも、彼に影響を受けて、同時に彼に何らかの影響を与えていく展開が良かったです。
特に素晴らしかったのは最後。同じく美術部に所属していた女子生徒が告げた言葉は、由良にとってどれほど大きな意味を持ったか。素敵な贈り物だったと、そう思います。
「プシュケの涙」「ハイドラの告白」「セイジャの式日」という三部作は、一作目がとても素晴らしく、それ以降はやや盛りあがりに欠けるものがあったんですが、最後の最後をみたら、三作読んでよかったと思いました。
セイジャの式日 (メディアワークス文庫 し 3-3)
柴村 仁
アスキー・メディアワークス(文庫)
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