「あのね、たーぼうも知ってるかもしれないけど、来年から女子も甲子園に出場できるようになるんだって。それでね、わたし、三年後、日本に帰ってくる」
少女の言葉の一つ一つに少年は素直にうなずく。
「その時、たーぼうとまたバッテリーを組みたい。そしていっしょに甲子園を目指したい。だから約束して欲しいの。高校生になったら、同じ学校に行くって。そしていっしょに野球をやるって」
幼い頃から野球が好きで、バッテリーを組んでいた綾音と巧也。高校に入ったら甲子園を目指そうと約束して海外へ行った綾音が三年ぶりに帰国したら、中学時代に全国区の選手へと成長していた巧也は、野球をやめたと言い出して……もう一度一緒に野球を、そして部員数ギリギリの弱小野球部で、甲子園を目指すお話です。
これは面白かった。
始まりは、野球をやめたという巧也ともう一度野球をやりたいという意見の合わない二人の押し問答がくどかったんですが、っていうか、綾音がなんで野球を一緒に矢りたいと思ってるのか気づけよ!と巧也に言いたくなるんですが、そのあたりを過ぎて、野球シーンが始まると俄然面白くなる。
女子も甲子園にいけるということになっていても、体力的な差は否めないんですが、そのあたりを綾音がクレバーに切り抜けて行き、そんな彼女の力を知って、だんだんと本気になり、力を入れてしまうあたりで、野球をやめられるわけがないよ。 ふたりっきりの勝負は、まるで三年の時を埋めるかのような、そんなやりとりに感じました。
説得が終わったらようやく野球部入りですが、元々甲子園を目指す高校でないため、部員厚めから始まり、部内の人間関係、甲子園を目指すに至るモチベーションなどは、ご都合といってもいい展開でしたが、その中でも印象に残っていたのは、唯一の二年生、山崎先輩です。
決して野球の取り柄があるわけじゃないけれど、彼の地道な活動があったからこそ、そして悔しくとも、周囲を支える力があったから、南雲第一高校は、強豪高校相手に立ち向かうことができたんだと思います。じわっときたよ。
惜しむらくは、先輩について書かれるのがぎりぎりで、他の部員についてあまり描かれなかったのがなあ。せっかくいいキャラクタが揃ってるのに勿体無いと思いましたが、主役である二人を描くためにはしょうがなかったのかもしれません。
野球についての話がかなり詳細に描かれているため、ルール等を知ってると冗長に感じるかもしれませんが、いい青春ものだと思いました。個人的には、続編で他の部員に焦点を当ててくれたらうれしいな。
ひとりぼっちの王様とサイドスローのお姫様 (メディアワークス文庫)
柏葉 空十郎
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