「あんな馬鹿げたもん、取り戻してどうする気だ。野良猫みてえな暮らしを続けて、『いつかこれが国ひとつに換わる』とか言いながら、お宝なで回して過ごすのか?五年あとも、十年後も、ずっとそうして生き腐れるつもりかよ」
横を向く蘭珈に向かって、廉把は指を突きつける。
「いいか、この際はっきり言ってやる。あれは財産なんかじゃねえ、てめえの身に取り憑いた呪いそのものだ」
怪物と言うべき、覇王・螺嵒によって、仲間を失い、天下をとる夢を打ち砕かれ錨使いの廉把は、それから蔓延と日々を過ごしていたが、ある日、鐘を持たない鐘つき男・浪无と共に、亡国の姫を自称する小汚い餓鬼・蘭珈と出会い……怪物を倒す、三首四眼五臂六脚の怪物が立ち上がるお話です。
これはほんと面白い。
薄汚い姫が、本当に姫であるかは些細なことで、蘭珈がそれを信じているのであれば、むしろ止めようと動く廉把の生き方に、かつての挫折を思わされるんですが、そんな彼が前を向くきっかけとなる戦いが印象的でした。読んでるだけで、頭の中にどれほどの映像が思い浮かんだことか。
負い目を持っていたことと、人の期待を背負うことの厳しさを実感しながら、それでも支えてくれる人たちの心から、立ち上がっていく展開が素晴らしかった。ああ、この三人ならもしかして……と、期待させられるものがありましたよね。
儚いものでしたが。
てっきり、三人が協力して、敵を倒すと言う王道展開になるかと思いきや、なんだ、あの化物は!もう、なんていうか、螺嵒の強さは、言葉にならないぐらい圧倒的でなものを感じましたが、それでも生き残れただけましと言うものでしょうか。
彼の行動には、いまいち人としてのものを感じないところがあるんですが、両替屋のじいさん、受け取れなかった造花など、巻き込まれたものの悲劇が胸に響きます。あのシーンは、ほんとやるせなかったなあ。
今のところ、勝てる見込みなんてほとんどないと思いますが、それでも敵を見定め、そして、怪物を倒す怪物が生まれる土壌が出来上がりつつあるので、ここからどんな展開になっていくのかとても楽しみです。
龍盤七朝 ケルベロス 壱 (メディアワークス文庫 ふ 1-1)
古橋 秀之
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