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さよならピアノソナタ encore piecs / 杉井光

「真冬も覚えてる?」
「……なにを?」
「いつ、どうやって直巳のこと好きになったのか」
「そ、そんなのっ」
ついに真冬は椅子から立ち上がってしまう。暖炉の前まで行ってかがみ込み、火に見入る。
「……忘れるわけない」

恋と革命と音楽が織り成す青春物語のアンコール・ピース集。二十四歳になったナオたち、四巻の空白の時間を埋めるストーリィ、神楽坂響子の初恋など、以下の五編が収録されています。

  • ナオが真冬に一大決心するまでを描く「Sonata pourdeux
  • 千晶に憧れてフェケテリコのサポートメンバーとなったベーシスト・橘花を描く「翼に名前がないなら
  • 離れた真冬とナオの間で揺れるユーリを描く「ステレオフォニックの恋
  • 神楽坂響子の初恋を描く「最後のインタビュー
  • 哲朗のワンエピソードである「だれも寝てはならぬ

ちょっぴり大人になった登場人物たちの姿に一抹の寂しさを感じることもあったけど、あの頃と変わってない面も多くて、特に神楽坂先輩とナオの関係は、大人になっても高校生の頃を思い出させてくれて嬉しくなる。

表紙からしてネタバレですが、ナオのプロポーズ話は楽しかったなあ。まふまふの様子に気づかぬ鈍さは相変わらずですが、発破をかけられて意識し出したり、結婚というものにもやもやするものを感じたりしてたけど、音楽が二人を結びつけてくれるところはとてもよかった。
まったくキザなプロポーズだよ、と思いながらニヤニヤでした。おめでとう!

どの話も良かったけど、音楽的熱さを見せてくれたのは「翼に名前がないなら」かな。二名で活動するフェケテリコの千晶に惹かれて、サポートメンバーに応募した女の子・橘花のお話。

憧れて、念願叶って、初体験のグルーヴに打ちのめされて、ついていくために一生懸命頑張って。仲間になっていく様は、我がことのように嬉しくなったけど、のめりこみすぎたことが、彼女の翼を封じてしまう結果になるから、心とは怖いものです。
もがき苦しみながら、投げだそうとして、でも投げ出せなかったのは、やはり憧れと、音楽への感動があるからなんでしょうね。
逃げるのではなく戦うために、立ち上がった橘花の姿は、とても素敵でした。こんなときでも格好いい神楽坂先輩にやられるばかり。

その神楽坂先輩の中学時代の物語も素晴らしかった。
神楽坂響子をして最高のベーシストと言わしめたリュウジとの出会いのお話なんですが、彼女にとってどれだけ大きな存在だったか、とても伝わってくる。

才能に振り回されて二つのバンドをつぶし、ひとりでやっていく決意をしたときに、ハートをぶち破られるグルーヴを体験させられて。ああ、本編で彼女が他の人に伝えていた鼓動は、ここから始まっていたのかと思う次第です。

惹かれて、でも必要以上に近寄らせてもらえず。それでも音楽がふたりを結びつけていたと思っていた矢先の出来事は、神楽坂先輩にとってどれほどの衝撃を与えたか、想像するだに難しいことですが、倒れることなく、弱さを見せることなく、戦ってきた先輩を心の底から格好いいと思いました。
まったく泣かせてくれるお話です。

いやあ、よかった。ほんと素敵な短編集でしたね。これで会えなくなるのは寂しい限りですが、いつかフェケテリコが一堂に会すときがくることを想像して、本を閉じたいと思います。

このシリーズに出会えて良かった。

さよならピアノソナタ―encore pieces (電撃文庫) - 杉井 光

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杉井 光

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今回も著者の杉井さんが、本編に出てきた曲の紹介をしてくれてますので、読み終わった人は余韻に浸りながら、ぜひ。

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