「けれど、訂正を願いたい。貴方が思い出させてくれた」
笑うことのない雪蟷螂の族長のぎこちない笑みは、白い花が静かにほころぶようだった。
「たった一度だけだが……私も、確かに、この心を灼いたことはある」
蛮族ファルビエと狂人ミルデ族。雪に囲まれた山脈での二つの民族の争いに終止符を打つ政略結婚を直前に控えて、それを阻む出来事が発生し……、というお話。
これは非常に心にくるものがありました。凍てつく寒さの中で描かれる、心を灼く思いに魅せられます。
和平のために身を売る。それを当たり前のように受け止めて約束のときを迎える蛮族ファルビエの美しき女族長アルテシアの姿は、とてもハードボイルドで心情がつかめないが故に、逆に心の痛みを感じたりしてしまうんですが、政略結婚を阻む者がいると知ってからの彼女の姿は、しびれるものがありました。
アルテシアのそばに常にいる身代わりのルイと、近衛兵のトーチカが、信仰にも近い思いで彼女に仕えるのもわかる気がする。
ただ、生まれながら背負ったものがあるために、アルテシアには心に欠けたところがあって。
欠けたものがなんなのか。結婚のはなむけとして「魔女」が見せる先代族長たちが和平を結ぼうと思った「ほんとう」。そこに描かれる恋はまさに、愛する人を思うがあまり喰らってしまう ― 雪蟷螂の異名を持つファルビエ族の激情が描かれていました。幕間の話の切なさと、不意打ちのように見せられたイラストに、思わず涙する。
足りないと指摘されたことで思い出した恋する思い。それ無しでは和平がならぬのであれば……としたアルテシアが取った行動は、まさに蛮族というべきものかもしれません。でも、その単純にしてまっすぐな行動が、秘密を知る者全員の想いを浮かび上がらせてくれるんですよね。
鮮烈な刃の光が紡いだ未来が素晴らしかったです。
やっぱ、この人、最高だよ。
雪蟷螂 (電撃文庫)
紅玉 いづき
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