「ピアノしか知らなかった頃は、こんな気持ちになるなんて、想像もしなかった」
言葉もなく、うなずく。ぼくだって、ただ他人の音楽を聴いているだけだった頃は、あんな熱や鼓動が存在することすら知らなかった。
「もっと、弾きたい。響子を歌わせたい。千晶と一緒に歩きたい。……あなたの、心臓の音を聞いていたい」
文化祭のライブを終え、次なるステージの場を捜し求めている間にやってきた冬。真冬の誕生日とクリスマスの季節に自分の想いを告げようとした直後に、神楽坂先輩に振り回されて、さらには真冬に異変が起こり……恋と革命と音楽が織り成す青春物語の最終巻です。
ああ、もう素晴らしい!
真冬の誕生日に何かあげたいと思いながら、何が良いかと千晶に訊ねてしまう無神経さは、まったくもってアレですが、鈍い鈍いといわれながら、恋のせつなさ、苦しさを覚えていくナオの気持ちがすっごい伝わってきます。告げたい言葉があっても、でも今の関係が壊れたらという不安は、誰にでもありますよね。考えてみたら真冬も、千晶も同じような感じだった……わけでもないか。ナオが鈍すぎて伝わらなかっただけだから。
まあ、でも積極性という点では、やはり神楽坂先輩がダントツでした。まさか、あんな策略を仕立て上げてくるとは……。どこまで本気かってのは、なんとなく掴みにくいところがありますが、ナオの気持ちと真冬の気持ちに気づいていながら、それでも可能性にかけて動く姿は、らしくあり、らしくなく思えました。強くとも、やっぱり恋する思いは変わらないんだなあと思ったしだいです。
それでも、フェケテリコが飛んでいる間であれば、何とかなったと思うんですが、ナオが気づいてしまった真冬の不調から、少しずつ歯車が外れていくところには、もう……。誰が悪いというわけでもないのに、ちょっと不安を抱えていただけなのに、フェケテリコが片翼になってしまうあたりには、やるせないものがありました。
個人的に一番心にきたのは、「後悔しないね」という神楽坂先輩の問いに対するナオの答えですね。そう、後悔しないはずがない。それでも真冬のために……ナオの言葉と、その言葉を聴いた千晶や神楽坂先輩が、ステージへ向かうときの鼓動を想像したら、胸が熱くなるばかりでした。
いやあ、面白かった。重苦しい空気に包まれながら、それでも音楽が彼らを結びつけて、人々の思いを表現してくれて。自分への思いに気づいていき、また自分の思いも気づいていく。この物語を読んでる間、言葉を超えるような音楽ってあるんだなあと思いました。
できれば、もっと読んでいたかったですよ。ずっとずっと読んでいたかった。物語が終わることがこんなに寂しく思えるのは久しぶりです。可能であれば、この続きを、あるいは番外編でもいいから短編を読んでみたいですね。
文句なしでオススメのシリーズです。
今回も著者の杉井さんが、本編に出てきた曲の紹介をしてくれてますので、読み終わった人は余韻に浸りながら、ぜひ。
さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)
杉井 光
それにしても、ナオと同じベットで朝を迎えたのが、真冬でも、千晶でも、神楽坂先輩でもなく、ユーリだったのは意外でした……とか書くと、誤解を招くかしら?
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