「これがきっと最後だよ」
言葉の意味を理解するよりもまず、ジグルドの笑みに息を呑んだギュンターは、思わず顔を背けた。いつものジグルドの笑みではない。長年のつき合いであるギュンターには、その笑顔が物語る諦めと悲しみが一目でわかった。
「ギュンターが一人で十分だって言うなら……僕が必要ないって言うなら、僕にはもう戦う理由がないよ」
皇国を我が手に。そう考えた七人の選皇侯が、それぞれ光皇を立てて争う七皇戦争と、平民だったジグルドが剣を取り上り詰めていく過程を描く過去篇の第四弾。今回は、ジグルドとギュンターの溝が埋まらぬまま、三公が激突する七皇戦争篇のラストです。
ああ、切ない。わずかなすれ違いが、ここまでの悲劇を生み出すなんて……。
今回一番印象に残ってるのは、ギュンターの心の動きですね。ジグルドの才はわかっているのに認められず、気づけば孤立していく様は、痛々しいものがありました。後悔からヘレーネという存在を守りたいと思う、その心は決して間違い出なかったはずなのに、ジグルドと同じ位置に立ってしまったら……、それは歪んだ思いにしか見えなかったです。全てにおいて足枷になり、更なる悪循環を生み出す展開には、やるせない思いでいっぱいになりました。
それでも、ギュンターを信用しようとするジグルドの思いもまた切ないものがありましたが、ともあれ、これだけの問題があれば、三公の戦いにおいては、どう考えたって不利になるんですけど……ここで勝利することが、更なる溝を生むんだからやりきれない。勝利の祝杯を挙げている際の出来事があったから、ジグルドはエミリアではなく、エレオノーラを選んだんだろうなあ。それは優しさじゃない、とは言い切れないけど……。
たぶん、ジグルドは、たくさんの言いたいことを胸に抑えてるんじゃないかな。最後に流した涙が、一人流す涙が、雄弁に言葉を紡いでいた気がしました。
いやあ、面白かった!
巻が進むにつれて、どんどん分厚くなる七皇戦争篇でしたが、そこで繰り広げられる人間ドラマは、素晴らしいものがありました。過去篇で見続けてきたジグルドと、現在のジグルドを比較すると、どう考えても無理をしているようにしか見えませんが、彼にとっては、今の姿でい続けることが、贖罪ということなんだろうなあ。呪いとも言えるかもしれないけど。
過去篇に魅了されたおかげで、現代話をすっかり忘れてしまいましたが、次巻以降、また続いてくれるのかな。過去篇を読んでしまったので、どうしてもアールカヴ神聖帝国に肩入れしちゃうかもしれませんが、さあ、どんな物語になっていくのか。続きがとても楽しみです。
ゆらゆらと揺れる海の彼方 10 (10) (電撃文庫 こ 7-10)
近藤 信義
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