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[支倉凍砂] 狼と香辛料 9 対立の町 下

「知恵ならば貸す」
「十分だ」
「他の雌を助けるために何度わっちの知恵を借りるつもりかや?」
あまりにもあんまりなほどまっすぐな言葉をぶつけてくるのは、迂遠なやり取りをできる状況にないからか。それともついに我慢できなくなったからか。
ロレンスは笑う。自然に笑って、こう答えた。
「だが、旅を共にするのはお前だけだ」

麦に宿り豊作を司る賢狼の少女・ホロと商人ロレンスの旅路を描く物語の第九弾。伝説の海獣「イッカク」が陸揚げされたという町ケルーベで、イッカクの利益を独占しようとする女商人エーブと、ローエン商業組合という対立したふたつの勢力から、商売の話を持ちかけられたロレンスは……というお話です。

なんらしがらみを持たないはずのロレンスが、あっという間に絡め執られてしまうんだから、商人というのは恐ろしいものです。思わず夜逃げ同然の行動を取ろうとするロレンスの気持ちが伝わってきますが、袋小路に陥っていたロレンスの思考をあっさりといなすホロはさすがだなあ。第三者という立場であったこともあるだろうけれど、鳥瞰するような視点を持てることが、賢狼たるゆえんですよね。
ロレンスにしたところで、挑発されたら男としてのプライドにかけてのるしかなく、この二人の信頼関係が見えて、うふふとなりました。

ここだけじゃなくて、二人っきりになったときのシーンも甘いですよねぇ。口に出した言葉の裏が見えてくると、どれだけ相手のことを考えているかが伝わってきて、ああたまらない。甘々なのに、素直にならない二人のやり取りは、何度読んでも、楽しいものがあります。

ホロという支えを得たことで、一旦沈んでたロレンスが再び商戦に挑み始めるんですが、どうしても情報が足りないだけに、後から追いかけるハメになって、さらには対峙する相手が何枚も上手なだけに、奇妙な緊張感が漂っていて、不安に駆られてくるから、心理戦ってのは面白いですよね。

歯車として組み込まれた商戦の真意に気づき、裏切りを示唆され、いったいロレンスはどう動いていくのかと見守っていたら、意外な方向から取引が動き始めて……。
身の安全に気づいたとき、自己嫌悪したロレンスが、再び立ち上がったところが良かったです。こういうときでも、決してホロの手を借りない(というか借りすぎない)ところが、彼のいいところですよねぇ。

いやあ、面白かった。駆け引き云々も良かったけど、何より最高だったのが終章!
エーブからしたら……ねぇ?なんだろうけれど、ホロとしては面白くないのはわかりきってることで。さて、物語が閉じられた後、ロレンスがどんな言葉で責められて、どんな言葉でなだめていったのか。想像するだけでニヤケテしまいます。

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