『優しい雪乃。心配事は何?』
「……姉さんの知ったことじゃないわ」
『もっと喜ぶかと思ったのに。久しぶりでしょう?それなのに浮かない顔してる。うふふ、当ててあげましょうか?』
風乃は嫣然と微笑んで、雪乃を覗き込む。
『あなたがそんな顔してる時は、最近はだいたい< アリス >のことだわ』
「……黙ってて」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第八弾。今回は、人魚姫の事件があった町へ再び訪れた蒼衣たちの前に、自殺した女の子・琴理の影が襲い掛かってくるお話です。
今までは、元となったグリム童話を知ってたけど(深くは知らずとも、あらすじぐらいは)、今回のモチーフとなった「なでしこ」は知らなかったなあ。悪い奴がやっつけられて、みたいなお話なんだけど、オチというかラストが残酷なのは、グリムらしいというべきか。
ともあれ、上巻ってことで、未だ謎は謎のまま解釈も進まないので、そのあたりは置いておいて、いつもと違うなと思ったのは、雪乃の様子でしょうか。神狩屋と蒼衣と離れて過ごしたとき見せた蒼衣への思いは、依存のようでもあるんだけど、嫉妬のようでもあり、なんか素直になれないものを感じました。というか、下手すると、蒼衣を……と思って、ぶるっと震えてしまうものがある。
それと、もうひとつ、今までと違ったのは、< 泡禍 >と思わしき事象が続きながらも、はっきりと断定できるものがないってところですね。事故なのか、それとも……というあたり、いまいち繋がりがみえなくてもどかしい。
とか思ってたら、突然、ビクッとさせる描写を持ってきてくれるから油断ならないです。
犬、枯れない花、見えない足あと、といった具合に、不吉なキーワードがそろい始めて、ついに< 泡禍 >全開かと思い始めたあたりで下巻へ続くんだから、まったくもってずるいです。いや、わかってるんですけどね。だから下巻出てから読もうと思ってたのに、読まずにいられない魅力に勝てませんでした。
ああ、早いところ下巻でないかなー。
断章のグリム 8 (8) (電撃文庫 こ 6-21)
甲田 学人
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