何のことだ、とオルバが訊く間も惜しんでか、フェドムは即座に言い放った。
「おまえは、もはやオルバなどではない。もちろん剣奴隷などであるものか。仮面を外されたその瞬間より、おまえはまったく違う人間に生まれ変わった。それも、ただの、どこにでもいるような平凡な人間ではない。いいか、おまえは今日この瞬間から、恐れ多くも、メフィウス帝朝皇位継承者、ギル・メフィウスその人となったのだ!」
平和のために敵国へと嫁ぎにいく、お転婆でまっすぐなガーベラ国王女ビリーナと、うつけと評判なメフィウス国の皇子ギルと瓜二つな顔をしていたことで、明日の命もわからぬ剣奴隷から、皇子の影武者に抜擢されたオルバが出会っとき、二つの国に大きな動きが生まれ始めて……というファンタジー。
いやあ、面白かった!
村を焼かれ、母を奪われ、兄の行方もわからなくなり、自身は剣奴隷として明日の命すらわからぬ身に落とされて。しかも、その災厄をもたらしたのは、自国の軍であるという状況で、オルバがその国の皇子となるんですから、これだけで、何が起こるのか、何を起こすのか、もうドキドキ。
そんな事情を抱えたメフィウス国へ、嫁ぎにやってくる十四歳のビリーナ王女がまた素敵なんだ。自ら飛空挺を操縦するお転婆っぷりを見せることもあるんだけど、王族としての覚悟には、心打たれるものがあります。今回の政略結婚のみならず、彼女が九歳のときに立ち向かったという王宮でのエピソードにもやられました。
嫁ぐことで、二つの国の間に血を流さない道を探ろうとするまっすぐな姿が、心地よいです。
ふたりして、メフィウスという国について、思うところがありながら出会うわけなんですが、直後にふたりとも命を狙われ始めるから、俄然面白くなってくる。いったい誰が、何の目的のために手を出してきたのか。オルバの事情を知ってるものは少ないけれど、皆無ではないし、表立ってはガーベラの手のもののように思えても、実は……みたいな裏も感じられるんだから、面白くないわけがない。
目立ってはいけないと言われながら、己の立場が本当はどの位置なのかを確認すべく策略を立てて、敵対する相手と戦う指示を出すオルバも格好いいけれど、それ以上に格好よかったのが、自国の民の思いを知りながら、それでも民のために、王族としての立場を貫くビリーナでした。最後に見せた啖呵と行動に、鳥肌が立つほど奮えました。
いやあ、面白いなあ。
まだオルバの道は始まったばかりですが、復讐のみに目がくらんでいくのか、それとも……なのか興味が尽きません。ビリーナにしても、今のところ皇子の正体に気づいていないようですが(まあ気づけるほうが不思議だけど)、もし、知ったときどうなるんだろう?とか、いろいろ考えてしまいますね。
これは続きがすっごい楽しみです。
烙印の紋章―たそがれの星に竜は吠える
杉原 智則
アスキー・メディアワークス(文庫)
Amazon | bk1 | 楽天
関連エントリー
[杉原智則]
[電撃文庫]
[ライトノベル]
Home > ライトノベル > [杉原智則] 烙印の紋章 たそがれの星に竜は吠える
Trackback:1
- TrackBack URL for this entry
- http://www.booklines.net/mt/mt-tb-t.cgi/2416
- Listed below are links to weblogs that reference
- [杉原智則] 烙印の紋章 たそがれの星に竜は吠える from booklines.net
- 電撃文庫・7月の感想1 from 詠み人知らず 2008-07-30 (水) 01:55
- ■杉原 智則×3『烙印の紋章 たそがれの星に竜は吠える』 ★★★☆☆ かつて高度な知能を持った竜が支配し、【魔素(エーテル)】を 利用...
Comment:1
- ジャラル 2008-05-18 (日) 14:32
-
社会の下層階級にいる人間が、瓜二つの顔を持っていた事から・・・というのは古くは『王子と乞食』、最近では『影武者徳川家康』という名作がありますが、精神的にダークなオルバは、復讐を果たせるのか?と本当に先が気になる話ですね。「影武者」という点を除くと、ギルの立ち位置は我が国で少年時代同様に「うつけ」と呼ばれた、尾張出身の英雄を連想させますね。とするとビリーナは濃姫か? とすると親衛隊になった剣闘士の面々は・・・。次巻が楽しみです。




