「どうしよう……もしお母さんの指輪が見つからなかったら……」
訴える。想像するだけで奈落を覗き込むような絶望を。
「もし見つからなかったら……壊されたり捨てられたりしてたら……わたし、許さない。あの女を殺して……わたしも死んでやる……」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象を<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第七弾。今回は、イソップ童話の「よくばりな犬」「アリとキリギリス」「金の卵をうむめんどり」をモチーフにした<普通>の泡禍についての短編集です。
……いや、あとがきに<普通>って書いてあったけど、こんな日常が<普通>なのかと、げっそりするものがあるような。
まあ、事件に大きなからくりはなく、罪悪感などから生まれた<泡禍>に襲われて、それを雪乃が退治する、みたいなお話なので、普通と言われれば普通なんだけど、剃刀で顔を切られて歯茎を抉られたり、猫が猫の形じゃなくなったりと、エグくて痛い描写は、いつもと変わりません。むしろ、お話が短いおかげで、そこへ至るまでの道のりが、より直接的というかなんというか……。読んでて大変だった。
今回のお話で一番面白かったのは、表題作「金の卵をうむめんどり」ですね。雪乃がまだ普通の中学生で、姉の風乃が高校生として生きていた頃、再婚した継母との確執に、涙する雪乃の同級生・翔花が限界を迎えていくというお話です。
雪乃と風乃の……というか、ほとんど風乃の過去でしたが、こんなにも危うい人だったんですね。本人が危険というわけではないんですが、「こっち」と「あっち」の狭間にいるような存在感は、近寄ってきた人に影響を与えていくものがあって、母を恨む翔花の心が、少しずつ壊れていくところに、ゾクっとさせられました。なんせ、手が血に染まる行為をせざるを得ない状況に追い込まれて、それが自然なんですから。
何をしたわけでもないのに、追い詰められた人の心を、さらに先へ進めてしまう風乃の不安定な雰囲気が、切なかったです。
グリム童話との関連を見出す長編もいいけれど、人の心が崩壊へと導かれていく様が見えてくる短編もいいですねぇ。
断章のグリム (7)
甲田 学人
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