*

マグダラで眠れ(5)

「人は所詮その手の理不尽に翻弄され、あがく身の上だ」
「……」
「だが、その理不尽の嵐の中で、自分の望むものをつかもうとするから楽しいんだよ」

眠らない錬金術師と噂される青年クースラと、秘密を抱える修道女フェネシスが、「マグダラ」を探し求めるシリーズの第五弾。カザンの町から脱出し、たどり着いた港町ニールベルクでは、教会の鐘楼が作るたびに壊れてしまうという問題が生じていた。民の支えとなる鐘の製造を失敗することが、許されない状況となる中、クースラたちに鐘の製造の役目が回ってきて……というお話。

いやあ、良かった。錬金術師としてマグダラを目指していたクースラに迷いが生じていく過程が、何とも言えない。大切な人ができたからこその迷いは、時に目を曇らせることもあったけれど、そこで支えとなってくれるのがフェネシスであるという関係が素敵。彼女はいつのまにかたくましくなったよなあ。

そんなふたりなのに、いまだ決定的な言葉を交わしてないというあたりが、まったくもう!言わないし、言わせない、だけど、離れない、離さない。絶妙な距離感でした。

で、最大のピンチを切り抜けたと思ったら、今度は町の中の問題に関わることになり、これがやっかいなのは、「奇跡」に応えてしまったこと、なんですよね。一度やったならば、次やらないことには出し惜しみとしてみられ、持ち上げていた人たちが不満を持つようになると……職人でないにもかかわらず、鐘を製造しなければならない、それも失敗が許されない状態で。

かわそうとして、それができなくなった時、こういう時代だからこその「生贄」という行為が、前に出てきてしまったことが、悔まれてならないよなあ。

いつのまにか、上司たるアイルゼンが良き理解者となって(むろん自分の立場は忘れてないけど)、いくつかの道を示してくれたけれど、結局逃げることができなかったのは、錬金術師であるということよりも、錬金術が好きだと言う思いがあったからで。自分の迷いがどこにあるかを見せてくれたのは、迷いのきっかけとなったフェネシスだったというのが良かった。

まるで最終巻かと思うような展開だったけれど、どうやらまだ話は続くようです。良かった。これからの旅路がどうなっていくのか。二人の関係の変化共々楽しみです。

マグダラで眠れ (5) (電撃文庫) - 支倉凍砂

AdSense

関連記事

踊る星降るレネシクル(2)

でも、知ってしまったら? 事情を知ってしまった今は……どうする? 「……お人好し、上等じ

記事を読む

烙印の紋章(3) 竜の翼に天は翳ろう

「ぼくはもう、彼の言うこと為すことにいちいち驚かないことにしましたよ。それこそ慣れておかない

記事を読む

断章のグリム(6) 赤ずきん・下 / 甲田学人

泡禍による失踪事件の調査の最中、雪乃は同じ<騎士>である勇路の攻撃を受けて、重体に陥った。雪乃と他人

記事を読む

ヒミツのテックガール ぺけ計画と転校生

「なんでそんなこと言うんだ。それって良いことだろ?」 「マハルさん……?」 「よくわからないけど

記事を読む

六花の勇者 / 山形石雄

「勇者の数は六人。それ以上ということも、それ以下ということも、絶対にありえん」 「だけど、現に七

記事を読む

タクティカルジャッジメント(4) ろくでなしのリアクション!

マルチ商法にはまってしまった友人を助けてほしい。 普段なら受けない仕事だが、何の気なしに引き受け、そ

記事を読む

影≒光(シャドウ・ライト) 陰陽編

執拗に次代の当主を選定する儀を執り行おうとした兄は、気づいていなかったのだ。狭霧が既に兄を超えていた

記事を読む

ヴァンダル画廊街の奇跡

「ひとつ、おまじないを教えてあげる」 暗がりの中でも、少女の青い双眸は強い力を持っていた。

記事を読む

アウトニア王国奮戦記 でたまか ― 問答無用篇

金が無くてコネもない貧乏貴族である僕のような人間が選べる道は、軍人になることだけだった。 でも僕は早

記事を読む

しずまれ! 俺の左腕

「だって、そうだ、思い出したんだ。僕は恋をしていたんだ!僕は彼女が好きだった!!」

記事を読む

AdSense

災いの魔女と幸いの王

暗殺に向かない体質の魔女アリシアが、初めての暗殺に向かう話。暗い話かと思ったら、とんでもない。標的と二人で困難を乗り越えていく冒険に、たまらなくワクワクさせられました。「災い」と「幸い」が重なった時に生まれる素敵な物語です。→感想

PAGE TOP ↑