憤怒大公の侵略から三ヶ月が経とうとしている。あれ以来、魔軍の侵略は無いが、魔軍への切り札である最終兵器「独唱第五番」の唯一の使い手となった伊依は、気の抜けない状態が続いていた。
見かねた友人たちが、伊依を海へと遊びに連れて行き、つかの間の平和を楽しんでいたが、そのとき既に敵の侵略は始まっていたのだ……
伊依の恋愛とヴェクサシオンとの決着が描かれるお話なんですが、いやあ、すばらしい。アンダカって三巻ぐらいまでは、ほんと良かったんだけど、その後ちょっと落ちてきたかなと思ってたんですが、ここにきて、一気に盛り上がってきた。今まで描かれていなかった伊依の恋愛をきっちりとみせてくれて、さらにヴェクサシオンの心情の移り変わりが見える切なき物語に、やられました。
最高傑作にして最悪の失敗作と言われるヴェクサシオンについては、非道にしか見えなかったんだけど、生い立ちなどが見えてしまうと、まるで別の印象に変わりましたね。
子供のように純粋で、子供のようにわがままで。
なまじ力を持ってしまったことで、他人との間に絆を築けなかったことが、寂しさを呼び、でもプライドはそれを認めず、力を振るい、それがまた他人との距離を生む。切なかったなあ。
もし、誰かが温もりを、彼女を抱きしめてあげていたら、まるで違う人生を歩んだだろうなと思いました。
同じような立場なのに、仲間に恵まれてる伊依を憎みたくもなるわけだ。
一方の伊依ですが、行方不明となった遊について、罠奈に触れられたとき、ああいう反応を見せるとは思ってもいなかった。恋愛感情を今までほとんど見せてなかったし、どこかお子様というか、みんな大好き、な感じがあったから、余計にそう思ったのかも。そうか、見せてなかったわけではないのかと、いろいろ腑に落ちるものがあったなあ。
罠奈だけじゃなく舞弓も、伊依に対してズバっと指摘するところがあって、力になりたいからこそ、遠慮しない姿に、ああ、仲間ってこういうもんだよなあと改めて思いました。
力になりたいという友人たちの思いを感じながら、でも巻き込みたくないという思いがあり、もしかして恋という気持ちを避けているのではないかという思いがあったりと、戦い以外のことでも迷いを見せていた伊依でしたが、そんな彼女の迷いを晴らした蟻馬が、格好良かった。あの時、あの言葉を告げられたことは、伊依にとってどれほど大きなことだったか。子供の背負った重荷を軽くする先生って素敵。
確執を抱える二人の正面からの衝突でも、仲間という力の大きさが見えて、それ以上に伊依の成長を感じられて良かったです。相変わらずの甘いところもあるけれど、それでも伊依の言葉だからこそ、心が動くんだよなあ。
今まで逃げていたヴェクアシオンが、最後に勇気を振り絞ったところに、感動させられました。
いやあ、面白かった。個人的にはアンダカシリーズ最高傑作は三巻だと思ってるんだけど、それに勝るとも劣らないと思ったり。シンプルな展開がぴたりとハマった感じです。
どうやら次は、虚無大公との戦いのお話になるとか。これは大いに楽しみですね。
アンダカの怪造学 8 (8) (角川スニーカー文庫 185-8)
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