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[冲方丁] オイレンシュピーゲル 肆 Wag The Dog

「行けッ!!あたしが正気なうちに行けッ!!」
叫びを上げて突っ走る涼月 ― 握り締めた拳 ― 固く、 固く ― 自分が持ちえた、ありったけの何かを、その両手に握りながら、もうとっくに許可されていたその回線を開いた。
≪脅威の増大により高度兵装が許可されました。戦時状況下での行動を承認。戦闘員のアクセス権限を拡大。バランサーを解除します ― ≫
さあ、握れ ― 絶対に手放さないように ― 決して失わないように ― 心を握り続けろ。
≪特甲レベル3の転送を開始します≫

凶悪犯罪やテロが多発しているオーストリアの首都であるミリオポリスで、特甲を手に治安の維持にあたる、黒犬、紅犬、白犬のコードネームを持つMPB遊撃小隊の活躍を描く物語の第四弾。今回は、ハイジャック事件と前代未聞の亡命事件でごった返してたウィーン国際空港に、二つのテロリストが集い……というお話。

スプライトシュピーゲルの「テンペスト」(→ 感想)で、MSSの小隊長である鳳が、MPBの黒犬たる涼月と連絡を取り合ったときに、とんでもない事件に巻き込まれてることはわかってましたが、いやあ、すごかった。「テンペスト」に負けず劣らずのジェットコースターノベルですよ。既に事件の裏側については、知ってるところも多いのに(証人とか)、だからこそ、同じところに向かって、突き進む物語に集中できたのかもしれません。

面白いことに、「テンペスト」では、鳳の側にハロルドというアドバイザ的な存在がいましたが、涼月にもパトリックという存在がいるんですよね。ハイジャック犯と共闘とは、思い切った判断するなあと思いましたが、いやはや、この男も頼りになります。はじめは、警戒していた涼月が、少しずつ心開いていく様子とかいいですね。

何といっても面白かったのは、鳳とのやり取りです。「テンペスト」を読んでるんだから、電話がかかってくることはわかっているのに、それでも、かかってきたときには、大興奮ですよ。つっかかりあいながら、実は「あたくし」に劣等感を抱き、それでも困難を乗り越えていくうちに、共に都市を守るものとしての信頼みたいなのを感じていく姿が、すっごいよかった。

あと、MSSはどちらかといえばチームとしてのお話なんですが、MBP側は、ひとりひとりが、結構独立してて、それがまた魅力のひとつでもあります。夕霧の不思議空間の中に見える、悲しみや心の痛みなども心に残りますが、それ以上に陽炎に襲い掛かる出来事が印象に残ります。

普段はクールなのに、ミハエル中隊長への秘めた思いを抱えるところには、ニヤリとさせられるものがあったりしますが、MBPとして市民を守ることについてのプライドの高さと忍耐強さがすごかった。決して強いわけではないのは、レベル3を呼び出してしまったことからもわかりますが、その彼女が耐え抜いた姿に、心震えるものがありました。あのときのミハエルの言葉は、彼女にとって大きな支えになったろうなあ。

そして迎えるMSSとの共闘。どうなるのかわかっているにもかかわらず、涼月の心のうちが見えることで、また別の思いが感じられて、楽しい楽しい。陽炎にしても、真っ向勝負な涼月以外の指揮に入って、連携のすばらしさを知ったみたいですし、この経験が、MBPもMSSも成長させてくれるんでしょうね。

MSSとの信頼関係が見える最後のビデオレターがとても素敵でした。

あー、面白かった!最高!

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