「わたしがここにいるのには深遠なわけがある。……だが面倒だから手っ取り早く言おう。わたしは悪魔だ」
「……そう」
「やはり信じていないようだな。しかし説得するのも面倒くさい」
「いやいや、一応信じてる。いかにもそれっぽい登場だったし。赤い本読んだら変な笑い声がして、バラの香りがして。すごく怪しいものが出そうな状況だったよ、うん、大丈夫」
小さなころから父について世界中を旅していたジャスティンが、祖母が倒れたという知らせを受けて帰国したら、お城は父の友人に乗っ取られていて……。身の危険を感じたジャネットが名を変えてメイドとして城に潜り込んだら、ひょんなことから、書斎にあった魔法書と契約してしまい、超美形だけど怠惰な悪魔・レクスを従える羽目になって……というお話。
軽快なお話ですね。
自分の城を乗っ取られ、乗っ取った男に仕え、城のメイドたちには嫌がらせされ、という部分だけひっぱりあげると、悲劇のヒロインっぽいですけど、苦労を苦労と思わない性格なので、読んでて楽しくなります。世界中を旅して苦労を重ねてきたお嬢様だけあって機転も利くし、乗っ取った男との直接対決がどうなるのかすっごい楽しみだったんですけど、そういう話にならなかったのは残念かな。
人間と契約しないとこちらの世界に長くいることがつらくなる、という非常によくある悪魔設定なんですが、肝心のジャスティンが美形嫌いだから面白いんだ。怠惰ながら力を持つレクスが、時に直接的に、時に間接的にジャスティンに契約を迫るんですが、毎回毎回断られるパターンが笑わせてくれます。
はじめはちょっとした興味本位からジャスティンに言い寄っていたレクスでしたが、だんだんと本気になっていくところが良かったです。
一方のジャスティンも、悪魔たちに対してはどこかトゲトゲしいものを見せていたんですが、本当に欲しいものが何なのかに気づくくだりで、レクスや悪魔たちに心許すシーンは素敵だったなあ。「温かな食事」には、ほんとうに胸が温かくなるものがありました。
ただ、「オペラ」シリーズの作者の作品、というイメージで読むと、いろいろ物足りないものもありました。方向性が違うので当然なんですが、どこかそういったものを期待している自分がいたんだろうなあ。このあたりは、僕個人の問題ですが。
とはいえ、つまらないわけではないので、続きは楽しみにしてます。ふたりの関係が素敵なことになってくれたらうれしいな。
悪魔のソネット 美形悪魔は契約しない!? (角川ビーンズ文庫 56-9)
栗原 ちひろ
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