「俺は今日から、一般人になろうと思う―って、おい!流すな、俺は大まじめだ!」
一般人になれば、目立たなければ、この逃避行も少しは楽になるだろうと考えたカナギは、自分も目立つ存在の一人であることを自覚せずに、何かと目立つ詩人とミリアンに一般人として心がけるよう注意した。
そして、とある集落へと「一般人」として足を踏み入れたが、平凡を強調しようとするあまり、余計に目立っているようで……
薬師カナギと詩人ソラ、魔導師ミリアン一行が旅するロードノベルファンタジーシリーズの短編集です。
- 遭難しかけた三人が避難した城での幽霊騒動を描いた「オペラ・スピラーレ 亡国の螺旋」」
- 領主のお抱え画家を目指すマルセルが、ソラをモデルにしたいと言い出す「オペラ・リトゥラット 懐かしい肖像」
- リュリュが始めてデクストラと出会ったころの思い出を描く「オペラ・プロメッサ ずっとあなたを待っている」
- 幼きバシュラールが詩人と出会い、家族を失い、そして詩人を追いかける決意をする三編「オペラ・メモーリア 砂金の思い出 / 錬鉄の思い出 / 祝祭の思い出」
- 一般人を目指そうとするカナギの無駄な努力が描かれる「オペラ・スィーミレ 最高の隣人」
という七編が収録されています。
やられた。ほんとやられた。こんなに笑い溢れるお話ばかりだとは思いもしませんでしたよ!何度吹き出してしまったことか。ああ、また外で変な目で見られるはめに……まあいいか。この人のセンスが大好きです。
以下、各話の感想なんぞを。
「オペラ・スピラーレ 亡国の螺旋」」
まさかカナギが怖がりだとは思いませんでした。ミリアンまでもがからかうほどなんだから、いいリアクションに笑いが止まらない。幽霊なんかいないとムキになって城内を探索するカナギが可愛く思えましたよ。
ま、実際のところはアレでしたけど、よく考えたら、そういった気配をまるで感じられないのに、怖いと思うから不思議。想像力ありすぎるのかな。
「オペラ・リトゥラット 懐かしい肖像」
ソラをモデルにといいつつ、メインはミリアン。お抱え画家を目指すマルセルのライバルの息子エリックが、ミリアンに惚れちゃって、でもプライドからそんなことを素直に言えないので、いろいろ嫌がらせをしていく過程に、転がりまわりそうになりました。トカゲって、小学生か!バカだ。ほんとバカだ。
またミリアンが嫌がらせを卒なく回避してくれちゃうから、ますます立場がなくなるエリックが可愛そうになります。こういう、ある意味、普通の恋のお話もいいなあ。
「オペラ・プロメッサ ずっとあなたを待っている」
光魔法教会学部に入門したばかりということで、ちょっと幼いリュリュが……って、あんま変わらないような。いや、今よりももうちょっと暴走気味か。
さりげなく親孝行なところも見せてましたけど、優秀だけど暴走する生徒ってのは、教える側からしたら、扱いに困るだろうなあ。ね、ヤウザさん。
デクストラに一目ぼれしての一直線ぷりはおかしいけれど、この思いが本編に繋がっていったんだなあと思って、ちょっと温かくもなりました。幸せを感じられるラストが素敵です。
「オペラ・メモーリア 砂金の思い出 / 錬鉄の思い出 / 祝祭の思い出」
期待されない四男ってことで、寂しさからやんちゃな事ばかりしてるバシュラールがかわいいなあ。イエーリとはこの頃からだったのか。始めは、単なるお目付け役扱いだったのに、だんだんと絆が出来ていくところが良かったです。そして、母親の温かさを知るところも。
知っていますか?お前は私が抱きしめたいときには、いつもとっても汚れているのよ
じわりと浮かび上がるものがありました。
それにしても、バシュラールがこんな昔から詩人と出会っていたとは思いませんでしたが、あれじゃ怨み辛みを持つわけだ。詩人がいなくとも同じ運命をたどったのかもしれませんが、家族からしたら……元凶にしか思えませんよねぇ。
ただ、この出会いが彼をより成長させていき、後に良きライバル(?)と出会えたと考えると、さて、詩人との出会いは、彼にとってどういうものだったのか。全てが終わった後に、いろいろ聞いてみたい気がする。
「オペラ・スィーミレ 最高の隣人」
ページ数は一番短いですが、笑いの破壊力は一番大きかったです。この三人の旅で、目指せ一般人という目標は、どう考えても無理です。無駄な努力です。悟ったように話し掛ける詩人を振り切って、頑張ろうとするカナギの必死さが涙を誘います(笑いすぎて)。
普通さをアピールすればアピールするほど、普通でなくなるご一行に爆笑。
っていうか、ミリアンのナイフ投げを芸というのはわかりますが、カナギの喀血を芸というのはどうかと思います。いや、ミリアンの「呪文」には、鼻血出そうになったけど。マジメにやってるのに、受けを狙っているようにしか見えない毒キノコの件で、うつむいて笑っていた電車の中。地獄でした。
ああ、面白かった。本編がシリアスなだけに、三人の平和で楽しい日常が見れたのは嬉しかったですね。
さて、あとは最終巻を残すのみ。
前作の衝撃のラストから、どういう結末を迎えていくのか、今から楽しみです。
オペラ・メモーリア―祝祭の思い出
栗原 ちひろ
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