年末に武術仕合を行いたい―そう言い出したのは、右羽林軍と左羽林軍の大将だった。女に縁のない生活をしてきた武官たちは、一年を振り返るこの時期に、士気が落ち込むので気合を入れたいということらしい。年末まで男らしい武術仕合を行っては、ますます気が滅入るのではないかと思った劉輝だが、抜け目のない右羽林軍は、とっておきの副賞を用意していた。優勝者には、八十余歳にしてもなお、女性のみならず、同性にまで骨抜きにしてしまう、櫂州牧から恋愛指南を受けられるというのだ!
この知らせを受けた武官たちは、今までにない真剣さで猛稽古が行われて……
櫂州牧の恋愛指南をエサに開かれた武術仕合に挑むものたちを描いた「恋愛指南争奪戦!」、少年であった邵可が、ひとり家を出た理由を描いた「お伽噺のはじまりは」、天災にして天才の黎深が、妻を迎えるまでの騒動を描いた「地獄の沙汰も君次第」。そして、「地獄の沙汰も君次第」のその後のショートショート「幸せのカタチ」からなる短編集です。
いやあ、面白かった。モテない男たちの思いが切々と伝わってくる「恋愛指南争奪戦!」には、あまりのおバカさに笑いまくり。参加人数があまりに多かったってことで、ふるい落とす「課題」くじがあるんですが、これがまた楽しくも、危険極まりないことばかり!「魯官吏を笑わせること」「菅工部尚書と飲み比べで勝つ」「黄尚書の仮面を奪うこと」ぐらいならまだ何とかなりますが、黎深に対して「お前の兄ちゃん、でーべそぉ!」と言わせた人、ひどすぎです。あの武官が生き延びるのに、どれほどの奇跡を必要としたか想像するだに恐ろしい。
という感じで話が進むんですが、ただの武官ならともかく、劉輝、あんたまで参加するなよ!時期的には秀麗が後宮から出た直後ってことなので、秀麗を思う気持ちはいいとして、櫂州牧から恋愛指南を受けようとする姿勢に哀愁が漂います。いや、それでも、前向きになったと思うべきなのかなあ。
最後まで残った者たちの競演がどうなるかとわくわくしてたんですが……こういう決着のつき方をするとは思わなかったです。最後まで意表をついてくれる。
残りのふたつの短編は、紅家の奥に入っていく物語で、特に「お伽噺のはじまりは」は、邵可がもうひとつの顔を手にしたころのお話ってことで、切ないものがあったなあ。幼い弟を残して、家を出た理由が、心に痛いです。弟たちを守るため、不用意に刃を向けられないようにするため、そして、好きな人のため。
そんな時代を生きたからこそ、今の平和が何よりも大切なんだろうなと思いました。いつか、邵可が琵琶を弾けるときが来てくれたらと、そう願います。
そしてそして、みんな大好き黎深の魅力が全開な「地獄の沙汰も君次第」は、まだ黎深が紅家の当主を継いだが継いでないころの話で、邵可会いたさに、国試を受けようとするあたりが素敵すぎる。でも、同じ時期に試験を受ける人たちから、恐怖の大王並みに恐れられてるあたりさすがです。同期に悠舜や鳳珠がいなかったらどうなってたことやら。
そんな黎深には、幼いころから面倒を見てくれていた百合と譲葉という名と性を二つ持つ人が側にいて、という紅家らしい、変な習慣というか、そういったものがあったんですが、この二人のやり取りがたまらなく面白い。気に食わないことがあれば、黎深は彼女に当たりまくるし、彼女は彼女で黎深を諌めまくりで、側にいた人からしたら、嵐がきたと思ったに違いありません。でも、外から見てると仲の良い姉弟にしか見えなくて楽しい限り。
百合からしたら、黎深は大切な人の弟というぐらいの認識で、黎深からしても似たようなものかと思ったら、時折見せてくれる狼狽する姿に、あれれ?とにんまりさせられるばかり。ツン度がものすごく高いために、気づきにくいし、ひょっとしたら、本人も気づいてないところがあったのかもしれないけど、近すぎて遠い存在になってしまった距離感には、楽しくも切ないです。
天才であっても、子供な心を持つ黎深なので、好きというのを本当の意味で自覚したのは……やっぱり、鳳珠が百合を意識してからかなあ。
パンダとみかんに爆笑させられ、幼いコウの勘違いに笑いが止まらなくなって、でも百合の本当の思いに、切なくなって……。さすがの黎深でも、彼女を留めるのは難しいかと思いましたが、さすが天上天下唯我独尊男。やってくれる。
それにしても、黎深の奥方って全然出てこないよなあと思っていたら……こ、この男は!まあ、幸せそうだから、いいですけど、もうちょっと優しくあげてよと思うばかり。たぶん、あれだな。秀麗が黎深のことを知ったら、100%奥さんについて説教すると思うので、そうなったら、きっといい方向に行くんじゃないかしら。
ああ、楽しかった。紅家の秘密が知りたい人と黎深大好きっ子なら、文句なしで満足できると思います。今回、黎深のわがままっぷりを堪能したので、次は、黎深が振り回されるお話が読んでみたいんですが……さすがに難しいかしら。邵可や秀麗あたりならやってのけてくれると思うんだけど……
彩雲国物語隣の百合は白
雪乃 紗衣
関連エントリー
[雪乃紗衣]
[角川ビーンズ文庫]
[ライトノベル]
Home > ライトノベル > [雪乃紗衣] 彩雲国物語 隣の百合は白
Trackback:0
- TrackBack URL for this entry
- http://www.booklines.net/mt/mt-tb-t.cgi/2036
- Listed below are links to weblogs that reference
- [雪乃紗衣] 彩雲国物語 隣の百合は白 from booklines.net






