「それで、どうしてこんなこと考えたの?」
「え……。だから、シャルロットがおいしかったから」
「うん。それは聞いた。それで、どうしてこんなこと考えたの?」
ぼくは軽く天を仰ぎ、俯いて溜息をついた。
「小佐内さんと二人きりだったから」
まろんさんにおすすめされて手に取りました。
「十代のための新名作」として、六名の作家さんが描く以下の青春物語が収録されています。
- 米澤穂信「シャルロットだけはぼくのもの」
- 万城目学「ローマ風の休日」
- 恒川光太郎「秋の牢獄」
- 森絵都「春のあなぼこ」
- 角田光代「夏の出口」
それぞれ各著者さんの短編集等に収録されているうちの一編を引っ張り出してきた感じのようですが、どれも印象的な物語ばかりでした。
「シャルロットだけはぼくのもの」は、三つしかないシャルロットを、彼女に気づかれないよう、こっそり自分がひとつ多くいただくためにはどうしたらいいかと試行錯誤して行く男の子のお話。収録作品の中で唯一既読でしたが、結末を知ってても楽しいです。
この他、小学校を卒業して中学生になるまでの空白の二週間の間に、友達と都会へ買い物へ出かける女の子たちの「春のあなぼこ」は、別れの寂しさが伝わってきて、思わずもらい泣きしちゃいそうなお話にやられて、「夏の出口」は、高校三年生の女の子が、将来を考え、いまを考え、どうしようもない焦燥感にかられて、でも何もできないというモヤモヤのなか、友人だちと最後の夏を過ごすお話で、はじめはこの焦燥感がよくわからなかったんだけど、だんだんと見えてきて、ああそうか、彼女はもうちょっとだけ待って欲しいんだ、友人たちと立ち止まってみたいんだというのが伝わってくると、うんうんって思ってしまいました。
旅行先ではナンパされるのではなく、女の子同士で夜通しお話してたら、もっとすっきりできたんじゃないかな。きっと一夜はそういう日があるに違いないと思ったりする。
青春ものという点では、「ローマ風の休日」が良かったです。高校生の男の子と、女子大生のバイト先のお話。ちょっと野暮ったく思える女の人だけど、だんだんと目がいってしまい、彼女の愛想なしがクールへと評価が変わっていくハプニングから、思い切ってデートに……という展開がいいんだ。
内心のドキドキを隠しながら、でも少年らしい嫉妬を見せて、最後にツンと心にくる。素敵でした。
でも、一番印象に残ったのは「秋の牢獄」ですね。11月7日を何度も繰り返す人のお話です。短編というより中編ぐらいの長さがありましたが、繰返し繰返し同じ日がやってくると、やがて希望がなくなってしまう。その時流した涙が切なかった……
でもそれだけで終わらず、同じような「リプレイヤー」と出会ったことで、いろんな人達の絶望や楽観などの感情が見えてくるんです。リプレイするならという思いが生み出す恐怖と虚しさは、このエリアだからこその感情だよなあ。
実際のところ、リプレイヤーになった人たちにどういう特徴があったかはわからない。でも、どんな人でも、ふと周囲から浮いてると思う時があるだろうし、その時に感じる寂しさが、ここにいたら、なんていうか達観できたというのは、よくも悪くも、なんじゃないのかな。
登場人物であるコクラさんの言葉が、囚われた人たちの思いを代弁してると思います。
私はね……たとえ自分が過去へ脱ぎ捨てられた影だとしてもかまわない。本体の私の人生などつまらぬものです。あなたたちに出会い、これほど素敵な時間を過ごせたのだから、よしとしましょう。
この人のお話はもっと読みたい、そう思いました。
きみが見つける物語 十代のための新名作 休日編 (角川文庫 あ 100-103)
角川文庫編集部
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