「最近ちょっと物騒なのよ」
泥棒すらきたことない、鍵というものがもとからついていない家も多いこの集落で、「物騒」とはどういうことだ。悟史は眉を寄せた。
「……あれが出たの」
高校最後の夏、悟史は昔ながらの因習が残る拝島に帰省したが、13年ぶりの大祭をひかえて高揚する空気の中、悟史だけは違和を覚えていた。そんな折りに、海と山を行き来するという「あれ」が出たという噂が流れ始めて……閉鎖された島の因習が生み出す大祭の真実を描く物語。
描かれる風景はとても美しく、閉鎖的といいながら、村の人達の繋がりは深く温かく描かれているのに、読んでいる間、ずっと胸がざわざわしていました。どこか澱がたまってる感じになる。
昔ながらの村ということで、濃密な近所づきあいや、長男は島に残り次男は外へ出る等の掟ともいうべき独特の生活習慣が数多くあるけれど、いちばん特徴的なのは「持念兄弟」だと思いました。本当の兄弟以上の結びつきをということで、幼い頃から一緒に過ごす存在です。
幼い頃から、「あっち」の世界が垣間見えていた悟史からしたら、持念兄弟である光市の存在がいなかったら、もしかしたら壊れていたかもしれません。不安な彼に安らぎを与えてくれて、悪戯仲間であり、支え合うふたりの仲の良さは、重苦しい雰囲気を払ってくれるものがありました。 きっと光市も、悟史の存在は同じ感じなんだろうなと、そう思います。
久しぶりに二人で過ごすうちに、「あれ」の存在を感じて、さらには島に封じられたと言う伝説を追うことになり、さらには「神宮」の秘密などなど、島の秘密が見えてくる展開は面白い。風習って、わけがわからなくても、いがいに意味があったりするんだよなあ。
神宮の次男・荒太と彼の側に付き従う犬丸の力を借りた持念兄弟のふたりの絆が、「あれ」を解き放っていくラストは、とても晴れ晴れするものがありました。
島に残るもの、島から離れるもの。いろいろな思いが見えましたが、繋がりだけは消えないと、そう思います。
それにしても、文庫用書下ろし掌編は、いろいろと想像をかきたててくれるなあ。
白いへび眠る島
三浦 しをん
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