女性アナウンサーとして中堅な立場である千夏と物書きの牧子と写真家の妻の美々は、高校時代からの付き合い。牧子と美々は結婚と離婚を経験し、ともに一人の娘がいる。
仲良く行き来する三つの家庭だったが、千夏の様子がいつもと違うことに牧子と娘のさやが気づいた。
それは病院の検査の帰り道からで……
素晴らしい作品です。心を揺さぶるとはまさにこのこと。
受け渡されるものと共に語り手が変わる 6章からなる三つの家庭の物語ですが、何と言ってもこの人の文章はリズムがいいですよね。思わず口に出して読みたくなる。
突拍子もない発言が、実はちゃんとした意味があったり(詐欺師からベルトの話になったり)、地元の人には当たり前のことだけど、周りから見るとちょっと不思議なことなど(フェリーのうどんの話とか)、一つ一つの場面での会話が興味を引かれるものばかり。「月の砂漠をさばさばと」で子供だったさきちゃんの成長した姿も見れます。
ただ、これはいわば味付けで、やはりメインは人と人とのつながりでしょう。人から人へ渡されるもの。それは物であり心でもあります。
友人、子供、親、夫婦。それぞれが関わりあった過去のちょっとした話に、心が優しく包み込まれました。
時に悪意に遭遇するときもある。些細なことかもしれないけれど、傷つく言葉がある。
でも、傷ついた心を支えてくれる温かい言葉がある。たったひとつのエピソードですべてを肯定してくれる気持ちがある。人の親になったことがないぼくが、子を思う親の話、ジャケットの裾をつかむ話でぐっときてしまうなんて思いもしませんでした。
そこには、支えてくれる存在が確かにありました。
どの章にも心に響く言葉があります。胸を打たれるエピソードがあります。素敵で切ない物語。北村薫のファンで本当に良かったと心から思える作品です。
お勧め。
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