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[すえばしけん] スクランブル・ウィザード

「あ、あの、いったい、何がおきたの?」
「テロだな。おそらくは反魔法系団体の」

魔法の素質判定が最低レベルのDランクでありながら、内閣特別対策局というエリート組織に所属している椎葉十郎が、とある事件での失敗の懲罰として、教官を勤めることになった魔法士育成学校に、反魔法主義を掲げるテロ組織が襲撃してきて……というお話。

これは面白かった。
無愛想で捻くれて、子供だろうと気にせず直球を投げるから、生徒たちが遠ざかっていく中、野良猫が縁となって、委員長の雛咲月子が少しずつ打ち解けていくところが、いいですねぇ。冷血な態度が誤解を生んで、でも実は端々に優しさが見えて、いつの間にか気になる先生になっていくところが良かったです。

そんなときにテロ組織が学校を襲ってくるんですが、生徒や教師が人質となっているため、機動隊は動くことができない中、たまたまテロ組織の手を逃れていた十郎が、ひとり立ち向かうという展開なので、いわゆるダイ・ハードですね。教官なんて面倒だと言っていた十郎が、生徒の日常を取り戻すために動く。その思いに至る過程がすっごい良かった。

十郎自身は、エリート組織に属してはいるものの、素質はDランクであり、敵の魔法士ははるかに上のため、これをどう切り崩していくんですが、この駆け引きもなかなかでした。
それでも資質の差は歴然としていたんですが、こういう展開で突破していくとは、いやはや面白い。
いろいろなものを思い出させる子ですね、月子は。

いやあ、面白かった。王道な展開がとても好みでした。
しかも嬉しいことに恋愛要素も見えてきたじゃないですか。まあ、十郎はアレなので、月子がどうがんばっていくかが、今後の鍵になるでしょうね。
これからがとても楽しみなお話だと思うので、ぜひとも続きをお願いしたいところです。

第2回ノベルジャパン大賞大賞受賞作。

スクランブル・ウィザード (HJ文庫 す 3-1-1) - すえばしけん

スクランブル・ウィザード (HJ文庫 す 3-1-1)
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[すえばしけん] [HJ文庫] [ライトノベル]

[榎田ユウリ] 宮廷神官物語 渇きの王都は雨を待つ

「よくない知らせだ」
王子は文から目を上げて言った。
「天青が何者かに拐かされた。一夜経ったが、まだ見つかっていない」

人の悪しき心魂を看破する慧眼児の持ち主であるお子様の天青と、若くして誉れ高い宮廷神官の地位を授けられた青年の鶏冠が、宮廷内での交流を深めていくお話の第三弾。今回は、王都が水不足に悩む中、町へ出かけた天青が誘拐されて行方不明になったと思ったら、大国・淘国の大使が慧眼児に会わせろと言い出して……という話。

ああ、こうやって成長していくんだなあ。
元気良すぎてあれこれ町を探索している間に、誘拐されてしまうところが、なんとも天青らしいですが、町の人たちの様子から、それまで深刻に考えていなかった水不足という問題を認識していくのを見ると、決して悪い出来事ではなかったと思います。まあ、無事だったからいえることですけど。
誘拐されたにもかかわらず、町の人のために何とかしようと、知恵を働かすところが、とても天青らしい。

そんな天青の状況は知らず、行方不明ってことで心配になった鶏冠が、自分の姿で動けないならと、あれほど嫌がってた女装をしてまで、町を探し歩くんですから、いやはや、天青を思う気持ちが伝わってきますね。
見つけて叱りつけたシーンを見てると、どれだけ大切に思ってるか伝わってきて、天青の涙と一緒にじんわりしちゃう。

外がそういった状況なのに、貴族たちは相変わらずな生活をしていて、そこをなんとかしようとする王子と、うるさい王子をだまらせようとする貴族とが、いろいろ謀略を練りあってるのはいつもどおりなんですが、王子に気に入られていることで、何かと狙い撃ちされる鶏冠が哀れでしょうがない。

といいつつも、個人的にはもうちょっとドロドロあってくれるとうれしいんだけどなあという思いはともかくとして、一番印象に残ったのは、逃げることもできず、さりとて立場上逆らうこともできない鶏冠が、雨乞いの儀という死と隣り合わせの儀式を行わねばならなかったときのシーンですね。自身が倒れそうになりながらも、民のためを思い、そして何より天青のためを思って見せた笑顔に、彼の心の強さを感じました。

いやあ、面白かった。急展開とかそういうんじゃないんだけど、天青と鶏冠が二人で過ごすときの雰囲気に安らぎを感じて、こちらまで愛しい気持ちになれます。
今後も、いろいろ気に食わない輩が、何かと手を出してくるでしょうけれど、この二人の信頼関係を壊すことはできないだろうなと、そう思いました。

さて、裏でまたきな臭い動きがあるようですが、次は何がおきるのか楽しみですね。

宮廷神官物語  渇きの王都は雨を待つ (角川ビーンズ文庫 (BB39-6)) - 榎田 ユウリ

宮廷神官物語 渇きの王都は雨を待つ (角川ビーンズ文庫 (BB39-6))
榎田 ユウリ

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[榎田ユウリ] [宮廷神官物語] [角川ビーンズ文庫] [ライトノベル]

[うえお久光] シフト 1 ―世界はクリアを待っている―

あるいはこのなかにも、いるのかもしれない。
真名を秘め、ペルソナで素顔を隠して向こうの世界を生きているやつが。
無効で泣き、笑い、怒り、そして平然と人を誘拐したりしていながら、なに食わぬ顔して登校しているやつが、このなかにいるのかもしれない。自分やセラと同じように『シフト』している人間が。
そうやって夢のなか、また一日を生き延びて。
いったい、あの世界はなんなのか ――

眠りにつくと、ネットゲームのような、ファンタジーな世界へと「シフト」され、戦士、魔法使いなどなど、様々な職を持って生活をする。現実世界での日常と、ファンタジー世界での冒険を繰り広げる少年少女の物語です。

単行本のときに読んだんですが、、ほとんど内容を覚えてなかったので再読。以前読んだときは、「面白いといえば面白いのですが、ハードカバーで買うほどではないかな」なんて感想をあげてるんですが、あのころの僕は何を思ってたんだろう。すっごい面白いじゃないですか!

たぶん、現実の世界とファンタジーな世界を行き来するという設定だけは覚えていたのが良かったのかも。そのことを知らなかったら、中盤ぐらいまで入り込めなかったかもしれません。というか単行本のときそうだったことを思い出した。

何といっても良かったのは、ラストのエピソードです。あれでもう涙がじわっと出て、ああ!
少女の思いもさることながら、少女を思ったラケルの思いにも心打たれるものがあって。 いつか、いつかきっととそう願いたくなるものがありました。

でも、不安のほうが大きいんだよなあ。 半人半獣のラケルと、町の用心棒を務めている戦士の女の子サラが見せてくれる揺れる思いとかは、ほんといいんだけど、ラケルの過去があまりにも酷で、いや、ラケルだけじゃないんだけど、時間の流れが違うあちらの世界ですごした長き時間のつらさは、きっと言葉では表せないものがあるんじゃないかしら。
本当は強いのに、そのことを隠してセラと一緒にいるところに、後悔と彼の弱さが見えてきます。

お人好しだからなおさらラケルもきついんでしょうね。現実世界で、同じように「シフト」しているクラスメイトに助けを求められたとき、口では文句を言いながら、相手に気づかれぬよう、そっと助けを出すところとか、優しさが伝わってくるんですよね。
お互いの素性を決して明かさないようにしているのは、怪物系という自分の素性を相手が知ったら、という優しさ故の言動なんだろうなあ。そう思うと、切なくもなるんですが。

忌み嫌われる怪物系で、でも側にいてくれる人がいて。
それだけで、平和に過ごせる時間があるだけで満足していたのに、突如として襲い掛かるのが、ルールなしのファンタジーの世界に持ち込まれた「国政」だってのが、やるせない。
どうやら主導しているリカルトなる人は、ラケルと並々ならぬ因縁があるようで、このあたりは、今後明かされていくんでしょうね。

今までの仲間を再び集結して、ということになるのかもしれませんが、「獅子身中の虫」がどうなっていくのか、とても気になります。続きが楽しみだなあ。

シフト 1―世界はクリアを待っている (1) (電撃文庫 う 1-20) - うえお 久光

シフト 1―世界はクリアを待っている (1) (電撃文庫 う 1-20)
うえお 久光

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[うえお久光] [電撃文庫] [ライトノベル]

[有川浩] ラブコメ今昔

「あんた、俺を一体いくつだと思ってるんだっ!五十も過ぎたおっさんが古女房との馴れ初めなんぞ隊内紙でべらべら垂れ流せるか、みっともない!」
「今村二佐は奥様との馴れ初めをみっともないと思ってらっしゃるんですか?」

有川作品でこのタイトルですから、そりゃもうどんなお話かはわかるってもんです。自衛隊絡みのラブコメが以下のとおり収録されています。

  • 第一空挺団の今村の元にやってきた隊内紙の取材内容は、妻との馴れ初め話で……「ラブコメ今昔
  • 自衛官でオタク。でも素敵が笑顔の光隆と付き合うことになった歌穂は、彼が遠征することを知り……「軍事とオタクと彼
  • 女たらしと呼ばれた広報官の正屋が、映画の撮影に協力することになったが、王様な態度のディレクターのおかげで、撮影が危うくなり……「広報官、走る!
  • 花形であるブルーインパルスのパイロットである夫がモテるのはわかる。だが、夫に近づいた女は、わたしを狙い始めて……「青い衝撃
  • 上官の愛娘に恋をして。どうしても言い出せないまま二年が経ったとき、悲劇が待ち受けていて……「秘め事
  • ラブコメ今昔」で取材側だった元気印の千尋と吉敷の恋を描く「ダンディ・ライオン ~またはラブコメ今昔イマドキ編~

個人的に一番良かったのは、表題作「ラブコメ今昔」かな。
結婚なんて上官の仲介がなければ、なかなかできない奥ゆかしい時代に、お見合いで知り合った相手と、少しずつ距離が縮まっていくところが、すごい良かったです。相手の可愛らしさがとても伝わってきて、そりゃこんな馴れ初めを人に語るのは恥ずかしいよなあと、取材から逃げ回る気持ちがわかりました。

そんな逃げを許さない広報の元気娘の千尋の追い詰め方がまた素敵で、奥様をも味方につけるあたりがとても策士でしたが、照れながらしぶしぶ口を開いた今村二佐が、最後に自衛官としての心を見せてくれるあたて、思わず背筋が伸びたりする。こういうところが、格好いいとツクヅク思う。

もうひとつの好みは「広報官、走る!」です。
自衛隊が映画撮影に協力することになって、女たらしと呼ばれた広報官の正屋が、撮影陣との窓口になってスケジュールの調整を立てて、でも業界人たちは予定なんてまるっきり守ってくれないという状況だから、撮影人側の窓口となったADの女の子が不憫で……気づけば、彼女をサポートするように動くようになっていく正屋の姿にニヤリとしちゃいます。
女たらしと言われるぐらい、コミュニケーションの得意な正屋が、肝心なときに何もいえないんだから、ああ、もう、いろいろくすぐられて、あー、もうごちそうさま!

「オタク」話で出てくるキャリアウーマンな女性の、笑ってしまう行動力とか、ストーカー女のちょっと怖いお話とか、自衛官ならばありえる悲劇を間近にするお話とか、甘いだけじゃないところもあるけれど、そこいら中で、ニタニタさせてくれるものがあって、ああ、楽しいと思いました。

思いましたが、でもでも、どこか物足りなく感じちゃったなあ。有川さんなら、もっと転げまわるようなお話が……と思ってしまう時点で、もはや普通のラブコメに戻れない体になってしまったのかもしれない。
ベタ甘物語がここまで好きだったとは、自分でも驚きですが、もっともっと、外で読めないぐらい、転げまわりたくなるぐらいのベタ甘なお話が読みたいですね。「空の中」「海の底」などのスピンオフもあってくれたら、すっごいうれしいので、次に期待したいと思います。

ラブコメ今昔 - 有川 浩

ラブコメ今昔
有川 浩

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[有川浩] [文学・歴史・その他]

[須賀しのぶ] キル・ゾーン 地上より永遠に

「おまえ、明日のパーティで何かやらかすつもりだな」
それも死ぬ覚悟で。
異様に生命力の強いユーベルメンシュが、それでも命を賭けて何かをしようと思うなら、それはよほどのことだろう。マックスが命を落としたのも、ロスマイヤー総帥暗殺という任務のためだった。
――暗殺?
「まさか、おまえ元首を殺すつもりか?」

23世紀。地球の治安部隊としてレジスタンスと戦っていた女隊長キャッスルと副隊長エイゼンが、火星の権力争いに巻き込まれていくというシリーズの最終巻。ヘルの強引な行動が始まり、頼みの綱であるクリューガーがどこかやる気がないおかげで、火星に内部崩壊がちらつく中、キャッスルたちが火星に戻ってきて……というお話。

ああ、もう涙がじんわりですよ。今まで冷たい人という印象の会った二人、クリューガーとエイゼンが、こんなに見せてくれるとは思いませんでした。

特に印象に残ったのは、やっぱりエイゼンかな。大切な人にほど破壊衝動を持ってしまうと思っていたのに、エーリヒの決意を聞いたとき、止めることなく成し遂げさせたあと、それを庇おうとしたのは、やはりキャッスルの兄、サウルのことが心にずっと残っていたからなんでしょうね。それを後悔と呼ぶのかどうかわかりませんが、そういう思いを見せてくれたことに嬉しくなり、でもその後に彼を襲った出来事に、クッと唇をかみ締めてしまいました。

そしてもうひとりの冷徹な男クリューガー。ユージィンという憎く、それでいて分かり合っている相手が、よりによってこの時期に姿を消してしまったことで、失意を感じるところには、もうだめかと思ったんですが、ボロボロの体でありながら、決してそれを悟られず、目的のために真っ直ぐと歩いていく姿は、非常に印象的でした。

もっと早く動いていれば、こんなに犠牲が出なかったとは思うんですが、それでも、彼がユージィンの元へと向かうときに見せた背中や、復活したユージィンを前にして見せてくれた逆転劇に、涙がじんわり浮かび上がりました。
決して輝かしい生き方とはいえないかもしれないけれど、かの人の心の芯というものを感じました。

ユージィンの暴走から、火星が引っ掻き回される中、ラファエルとキャッスルもまた、大きな動きを見せてくれてましたね。特にキャッスルの決意は……自業自得と言い切れないものがあるだけに、勇気という言葉では言い表せないものがありました。そんなキャッスルを応援するラファエルがよかったなあ。
「結婚」という言葉をさらりというキャッスルと真っ赤になるラファエルが、最後まで素敵でした。

いやあ、面白かった!
ひとり、またひとりと、謀略、暗殺、自殺、etcで、次々と倒れていき、最高のユーベルメンシュと謳われたラファエルまでもが、まさか追い詰められてと、最後の最後まで油断できない展開に引き込まれっぱなしでした。

また最後がいいんですよね。ああ、ラファエルって何て愛される人なんだろうという思いが伝わってきて、そんなラファエルともう一度恋をしようとするキャッスルの思いに、心から祝福したくなりました。
ふたりとも、今度こそ幸せをつかんでね、!

地上より永遠に―キル・ゾーン (コバルト文庫) - 須賀 しのぶ

地上より永遠に―キル・ゾーン (コバルト文庫)
須賀 しのぶ

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[須賀しのぶ] [キル・ゾーン感想一覧] [コバルト文庫] [ライトノベル]

[青木祐子] 窓の向こうは夏の色 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー

サラは、年下に見えなかった。少女だが、ひょっとしたら社交界デビュー間近な時期なのだろうか?それにしても手紙を渡してやったのは俺だというのに……。
「……ふたりっきりでか?ビアード」
「もちろんだ。気になるんだな?シャーリー」

仕立て屋と公爵家の御曹司の身分違いの恋を描いたシリーズの十二冊目の物語は、四編からなる短編集です。

  • 誰からも後ろ指を刺されないようにと世話を焼く叔母と姪の確執を描く「ドレッシング・ルームの高い窓
  • 男爵令嬢ファニーと探偵ケネスのじれったい恋の出来事を描く「希望という名の猫
  • シャーロック十四歳。寄宿学校で生活しているとき、気になる女性が……?「窓の向こうは夏の色
  • 「恋のドレスと秘密の鏡」(→感想)のモアティエ公の暗き過去を描いた「幸福な淑女

クリスとシャーロック分は足りませんが(さらにいうならパメラ分が足りなすぎ!)、それ以外の人たちの物語でも十分魅せてくれます。

いつもどおりのドレスを通じて、当事者たちのお話を描いていくのは、「ドレッシング・ルームの高い窓」ぐらいですね。主となる人が当初思っていた人ではなくて、あれ?と思ったけど、こういう大人の女の人の心が見えるお話もいいですね。
叔母と姪の確執がなくなっていく展開もさることながら、若き日をもう一度じゃないけど、年齢を重ねたからといって、魅力は決して衰えないんだなと思わせてくれる最後の描写がよかったです。手助けをしたクリスに拍手。

個人的に一番好きなお話は、「希望という名の猫」かな。身分違いの恋をしていると、特に自分のほうが低い身分だと、相手のことを信じていても、引け目を感じることってあるんでしょうね。男爵令嬢のファニーが隠し事をしていることを知り、いろいろ迷い、嫉妬するケネスの様子が面白い。まあ、なんかのろけを聞かされてる気がしましたけどね!
ラストのイラストがとても素敵で、うっとり。

ちなみにこのお話では、シャーロックがいろいろやらかしてくれました。クリスの指にはまっていた刺繍の指貫を指輪と勘違いして焦ったところが、すっごいおかしかった。うふ。

シャーロックの学生時代を描いた「窓の向こうは夏の色」は……、なんていうか、こういう生徒が下級生でいたら、こらしめてやりたいと思ってしまいそうな僕がいました。だって、シャーリーってば、小生意気な優等生なんだもん(つまりは今と変わらぬ態度のままなのだ)。
礼拝堂で見かけた女性、上級生の妹、パブの歌い手さんなど、いろいろな女性と出会い、ちょっと期待しちゃったりするシャーロックの心のうちにニヤニヤしてしまう。そりゃ男の子だもんね!
でも、最後には、なんだか女って面倒くさい、みたいな感じになってしまうところが、まったくもってシャーロックなんだから。

最後の「幸福な淑女」は、社交界の闇……とまではいかないけど、身分というものが生んだほろ苦い結婚話ですね。それなりの容姿があるのに、社交界に出ても注目されず、でも友人は常に男の人に囲まれている。嫉妬や焦りを見せながら、ついに掴んだ上流階級の人との結婚という夢が、さらに彼女を孤独にしていく。そんな展開が切なかったです。
卑屈な考え方が、友人をも遠ざけていくあたりがやるせないですね。

さてさて、次は本編に戻るようですが、シリアス話よりも愛ある話になるとか。クリスとシャーロック話はもとより、パメラのほうもいろいろやってくれたら嬉しいですが、どうなるんでしょう。楽しみに待っていたいと思います。

窓の向こうは夏の色 (コバルト文庫 あ 16-20 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー) - 青木 祐子

窓の向こうは夏の色 (コバルト文庫 あ 16-20 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー)
青木 祐子

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[谷瑞恵] 花咲く丘の小さな貴婦人 それは青いすみれの季節

「おまえだって、おれのこと平気で傷つけるじゃないか」
「……わたしが?あなたを傷つけてる?」
「ああ、そうだよ。ふりだけしろって?そんなのできるわけないだろ、おまえが芝居のつもりでも、こっちは……」

イギリスの上流階級の父と日本人の母を持つお転婆な少女エリカが、両親の死をきっかけに祖母の待つイギリスへ渡り、上流階級が何たるかを学ぶべく、レディズ・カレッジにの寮で生活をするお話の第三弾。今回はヴァレンタインが近づき、ジェラルドが落ち着かない日々をすごす中、エリカが他の女の子からの言付けの手紙を、ジェラルドに渡してしまい……というお話。

ああ、ジェラルド。なんて涙ぐましい努力をしてるんだ。監督生という立場を利用して、用もないのにエリカのクラスを見回ったり、没収したお菓子をさりげなくプレゼントしたり、果てはヴァレンタイン当日に監督生の集会を開いて何かしら接触を持とうとするんですから、ジェラルドの気持ちを知ってる身としては、微笑ましいなんてもんじゃない気持ちになります。
そんな不器用なジェラルドの優しさに、まるで気づかぬエリカを見てると、もうニヤニヤが止まりません!すっげー堪能させていただきました。

そんな二人の間に入ってくるのが、ジェラルドの親戚の女の子レベッカ。おとなしい引っ込み思案な子だけど、母親は上流階級思考というか、身分高き人しか相手にしないみたいなところがあって、身分を持つエリカやお金持ちのジェラルドに、娘を近づかせようとたくらむから、だんだんと話がこじれてくるんですよね。

母親のもうアタックのせいで、レベッカとジェラルドという関係を考えたら、何かもやもやするものが出てきて、ジェラルドとしては面白くなくて、ついエリカに当たって……。

ジェラルドが思わぬ行動に出てしまったことで、エリカも自分の思いに気づいて、今までにない弱さを見せてくれるところが印象的だったなあ。人を好きになるって事は、時に不安を呼び起こすことでもあるんですよね。身分なんてものを今まで意識したことなかったのに、急に大きな壁と感じてしまった恋模様。もどかしくも、応援したくなるものがありましたね。

悩むエリカに対して、校長として身分についての意見を述べながらも、孫への愛情も忘れないおばあさまの言葉や、態度は冷たくても何かと世話を焼いてくれるイザベラのあとおしなど、家庭と学校や寮の中など、いろいろな人の支えがあることが見えてくるところが、とても温かく感じました。こういう雰囲気、ほんと好きだなあ。

いやあ、面白かった。今までは、上流階級の子供たちが集うところで、風穴を開けていくエリカでしたけど、今回は身分違いの恋物語になってて、たまらなくやられました。

今回いい感じで終わってて、ある意味一区切りなのかなと思ったりしましたが、あとがきみると、まだ続くっぽい?せめて二人のゴールを、と思ってるので、ぜひとも続きをお願いしたいですね。

花咲く丘の小さな貴婦人それは青いすみれの季節 (コバルト文庫 た 16-35) - 谷 瑞恵

花咲く丘の小さな貴婦人それは青いすみれの季節 (コバルト文庫 た 16-35)
谷 瑞恵

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[樹川さとみ] グランドマスター! のこされた神の郷

「ききたくもないが、そのうさんくさい予言というのは、いったいなんです」
「ええと……これ、わたくしが言ったわけじゃありませんからね、そこを踏まえてきいてくださいね?」
なぜかシーカは横をむいてもじもじしちえる。
「わかりました。そんなとんでもない予言ですか」
「巨大な悪とむきあって世界を救うらしいですわ」

優秀だけど堅物な軍人ハルセイデスが、ノーテンキなシアシーカ姫を総長をして守りながら、個性的な部下と共に旅をするお話の第四弾。今回は、腰痛を抱える書記シンドーのために、温泉によろうとしたら、そこは邪教の村で、というお話。

笑った。笑いまくった。シアシーカの突拍子もない思いつきと、それをクールにかわすハルさんのやり取りは、最高だ!団員たちの視線から見る二人のやり取りは、好奇心よりも、好意の表れみたいなものを感じて、団としての繋がりも感じました。

で、ふたりっきりのとき、シアシーカの身にこれから何が降りかかるかってことについての予想が、彼女自身の口から明かされてましたが、うーん、きな臭いなあ。危険とわかっていながら、力を使った彼女を軽率と思うハルさんは、それだけシアシーカのことを大切に思ってるからなんですよね。もちろん、彼女の気持ちもわかってるから、ダメと言い切れないあたりが難しいですが、ますますの信頼で結ばれていく二人が素敵でした。

そんなこんなでいろいろあるけど、ひとまず温泉にと足を向けたら、よりによって邪教の村に入り込んでしまうんだから、この団はどこまでトラブルメーカーなんだと思ってしまいますが、団員たちがバラバラになりながらも、気づけば、解決への道へ続くネタを持ってくるから、面白いんだ。
カイと少女の間で、何かが生まれるんじゃないかと思ってた僕としては、ちょっと物足りないところもあったけれど(そこは期待するところじゃない?)、護るべきものを護るハルさんの戦いや、ラーと呼ばれる村の魔女を諭すシアシーカの言葉が、とてもよかった。

さて、今回の温泉物語で、休息はひとまず終わりって事になるのかしら。ミトラーダが何かしら仕掛けてきそうな感じがあるので、不安ではありますが、この団ならきっと乗り越えてくれると、信じてます。
シアシーカに秘密があったって、ハルさんはきっと!

ところで、ラストにちゃんと温泉シーンがあったのはうれしいんですが、えーと、なんでこんなに色気ないんだろ。いや、楽しかったからいいですけどね。

グランドマスター!のこされた神の郷 (コバルト文庫 き 5-37) - 樹川 さとみ

グランドマスター!のこされた神の郷 (コバルト文庫 き 5-37)
樹川 さとみ

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[響野夏菜] 今夜きみを奪いに参上! 翼のない王

「もちろん、なにかあっても助けに来てくれないわよね」
イリーシュは訊いてみた。のどの奥で笑ったリレイがうなずく。
「もちろん」
「そういうと思ったわ」
「けれど、無事を祈ってる。朝な夕なに」

どんな強固な警備でも潜り抜けてくるという盗賊「空の旅団」は、実は喪われた民の末裔だった。というわけで、同じ民の末裔であったことを知ったお転婆王女イリーシュが、旅団の一員となって冒険するお話の第三弾。今回は、失われた九つの宝のひとつ<三つ背の風切り>があるとの情報を調査するために、イリーシュが奴隷として潜入するお話です。

いやあ、面白かった!
奴隷に身をやつして潜入するって、どんな王女かと思いますが、さすが元気印のイリーシュ。船酔いやら乱暴な扱いやらを乗り越えて、王宮に入ってしまえば、女官のいじめもなんのそのって行動っぷりを見せてくれますね。どれだけたくましいんだかと思いながら、頼もしい限りです。
まあ、待ってる身であるエイラーンは気が気でなくて、あらぬ妄想をしたあげくに、いてもたってもいられず潜入しちゃうんだから、ニヤニヤがとまりませんけど。

後宮に入り込んだとはいえ、奴隷な身分なので、早々自由な時間はなく、調査がままならぬまま、時が過ぎていくんですが、「扉」を使ったときに、意外なところで、王とばったり出会ってから、怪しまれるから、さあ大変。
しかも、聖妃暗殺の疑いまでかけられてとピンチピンチの連続でどうなるかと思いましたが、とある人の「力」によって、なんとかぎりぎりのところで留まっていくところは、なかなかサスペンスでしたね。

「力」に気づかないイリーシュが、思わず本音を漏らしちゃうところにはニヤリ笑いが止まりませんでしたが、もうひとりの線入社によって、明かされた王の真実には、切ないものを感じました。
喪われたものを取り戻すために立ち向かう人もいれば、立ち止まり戦う人もいるんですね。それもまた強さだと思いました。

いつか彼らが同じ場所へ集うことができたら。そんな未来が待ち受けてることを願いたいですね。
最後まで素敵なお話でした。オススメ!

今夜きみを奪いに参上!-翼のない王 (コバルト文庫 ひ 5-78) - 響野 夏菜

今夜きみを奪いに参上!-翼のない王 (コバルト文庫 ひ 5-78)
響野 夏菜

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